可音のブログ

なんとなし気が向けば書きます

圧倒的妄想上の御来屋さん家の事情④

久遠が京太郎と再び連絡が取れたのは「御来屋邸化け猫事件」から丁度一週間後、卯月の中頃であった。

 

あの夜、京太郎は一応簡単な調整を終わらせる事には成功したらしく以前よりは少しだけ久遠にもわかる仕様にはなっていた。

とはいえ不慣れな操作に手こずり、試行錯誤した末にようやく辿り着けたのだ。

 

《電脳御来屋邸談話室にログインしますか?》

 

「えーっと………《はい》っと…。」

 

《御来屋久遠さんがログインしました。》

 

『こんにちは。ようやく入れました。宜しくお願い致します。』

 

《米倉京太郎さんがログインしました。》

 

『おおっ!久遠さん!入られたのですね^_^

宜しくお願い致します。』

 

『早速聞きたいことがあるのじゃが。』

 

『あの晩の事ですね。貴女が厨房に向かったあと…』

 

あの晩、久遠が厨房に向かった後京太郎は早速作業に取り掛かった。

《改良型全搭載パーソナルコンピューター》通称《SPC》。《seeker》という未来型通信機器を作る集団が作ったとされる現代のオーパーツ。いつ、どうやって造られたのかは不明で現存するのは僅か3台だと言われている。

その性能は驚くべきものでバッテリーや容量は無限、あらゆる空間で使用でき《SPC》同士なら時空や次元、世界すら跨いで通信出来るという。

とはいえ操作は普通のPCと大差なく、京太郎の作業も難解なものではなかった。久遠をこの電脳空間にスムーズに誘導する為に手を加えただけだ。あと30分も作業すれば完了するだろうと思われたその時、「ありっ?」という声とガタゴトと何かを動かす音が聞こえたという。

 

『声…?』

 

『はい。若い女性の声でした。私のすぐ上の方から聞こえてきました。』

 

『すぐ上⁉️何故そんな所から……それで確認したのですか?』

 

『いえ。』

 

『何故じゃ?もしかしたら泥棒かもしれぬし。』

 

『あんな暗がりの中、やろうと思えば確認する事も出来たでしょう。しかしてそれで何かわかるのか?否でしょう。』

 

『いやっ、でも一応確認するじゃろ普通。』

 

『普通なんて言葉に流されない漢で、僕はありたい。』

 

『……もしかして怖くて確認しないまま逃げたとか……?』

 

『…………』

 

『ヘタレ…』

 

『僕が本棚を動かした音を女中さんが聞きつけたみたいで、ドアが開いたので急いで窓から出たのです。「誰っ!」という声が聞こえたので、機転を利かせて猫の声真似をしました。そのままこちらに帰ってきましたが、その後問題ありませんでしたか?』

 

『早口でまくし立ててもヘタレは消えんぞ。

それに、問題ありまくりじゃ!あの後噂が噂を呼び、先日なぞ遂に学園新聞編集者なる奴が押しかけてきたんじゃぞ!「御来屋邸は化け猫屋敷」だとかなんとか…。』

 

『笑笑』

 

『なんじゃそれ、腹立つのぉ。』

 

『まあしかし、僕がいたという事はバレてないのですから良しとしましょう。ただ、気になるのはあの女性の声です。』

 

『……確かにのぉ。気になるといえば実は…』

 

久遠はキャラメルが突如として消えた件を京太郎に話した。

 

『成る程…それは不可解ですね…。ふむ…。』

 

『同一人物じゃろか?それとも…物の怪……?幽霊……?』

 

『今はわかりませんね。今も貴女の頭上にいるかもしれませんしね…。』

 

『嫌じゃあああああああっ!』

 

《隠し部屋》で薄明かりの中京太郎とやり取りしていた久遠は恐る恐る上を見た。

物音も人の声も聞こえないが、気味が悪くて仕方ない。

 

『すみません(笑)話を変えましょう。自己紹介の件ですが、名乗り口上を考えまして。』

 

『ほぉっ!どんな?!』

 

『大正昭和を股にかけ平成の暮れにやってきた傾奇者!圧倒的100年前の女。その名も久遠。御来屋久遠。』

 

『ふーむ…。』

 

 

『どうでしょう?』

 

『ピンとこんのぉ…。昭和って何じゃ?』

 

『平成の一つ前の元号で語呂合わせみたいなものですよ。』

 

『成る程のぉ。傾奇者ってのは何じゃ?踊るんかの?』

 

『お任せしますよ。ひとまず来週またそちらに台本を渡しに行きますのでその折にまた。』

 

京太郎とのやり取りを終え、久遠は《SPC》を閉じた。

途端、例の女の声の話を思い出し急いで自室に戻る。布団に潜りながら久遠はここ数日の目まぐるしい出来事を思い返していた。

 

進み出したVtuber計画。

 

未だ続いているキャラメル事件。

 

そして謎の女の声。

 

久遠は今まさに転換期の只中にいた。

 

そしてその翌日、さらなる事件に巻き込まれる事を久遠はまだ知る由もなかった。